『あらあなた、おかえりなさい。覚はいま出かけてますよ。どうもこの間あたらしく部活動を始めたみたいで、それの道具を買うんだって』
「へえ、あいつがねえ。もうそんな歳か。」
『文房具やさんに行くんだーってはしゃいでましたよ。まだ子供ね、オホホ』
「文房具?なんだ?文科系の部活なのか?」
『なんでも立ち位置やサイズがどうのこうの。ビニールテープが必要だって。何て言ってましたっけね…、たしか、バミ、リ、とかなんとか。』
「…バミリ…、だと?」
『そう!バミリ!あなたご存知なの?なんだか以前はオリンピックでも正式種目だったらしいんだけど、あたし運動のことは全く分からなくって』
「…覚は何時ごろ出て行ったんだ?」
『もう30分くらい前には出てますからもうすぐ帰って来るんじゃないかしら。』
「ただーいまー!」
『噂をすれば!帰ってきましたよ。おかえりなさい、覚。ずいぶん選んでたのね。』
「うん!だって櫻岡先生すっげえ厳しいんだ!100均のビニテ持って行った大田ってやつなんかゲンコツ食らっちゃってさ!床に謝れって怒鳴られて!」
「…櫻岡…!?」
『ビニテ?』
「やだなあ母ちゃん!ビニールテープだよ!縮めてビニテ!」
『あらやだ。お母さん流行には疎くって。』
「老けちまうぜー!あはは」
『この子ったら!オホホ』
「覚」
「父ちゃん!おれ!バミリはじめるんだ!バミリで色んな人に足場を分からせるんだ!」
「覚!」
「(ビクッ)…どうしたんだよ、父ちゃん?」
「…俺みたいな目には合わせたくなかったからお前にはバミリのバの字も、ビニールテープも一切使わずすべてガムテープで代用していたのだが。これも血筋なのか。出会ってしまったんだな。バミリに。」
「と、父ちゃん…」
「その櫻岡という男は…、もしかして…、櫻岡・フミユキーヌという名前じゃないのか?」
「そ…そうだよ!なんかフランス人の血が入ってるって。眼力がハンパねえんだ」
「やはり奴が…」
「なんだよ!知り合いなのかよ!」
「フフフ。知り合いどころか…。親父を…、おまえのお爺ちゃんを殺した男だ。」
「…えっ?」
『あ、あなた。それってまさか…』
「伝えねばなるまい。やつとこの佐々木家との100年にわたる因縁を!」
※このくらいのテンションで稽古は終盤戦に突入しております。
おおたりょうじ